
邸宅のなかで受け継がれた時代
英国のカントリーハウス、すなわち地方の大邸宅では、執事は家政を束ねる役職として置かれていました。技能を伝えたのは学校ではなく、邸宅そのものです。若い使用人は下位の役職から入り、先任者の手つきを見て覚え、任される範囲を少しずつ広げながら執事へ上がっていきました。
銀器の扱いも、灯りの支度も、客人の迎え方も、その家のやり方として口伝と模倣で受け継がれます。ヴィクトリア時代(1837〜1901年)は、産業革命で富を得た上流階級が多くの壮麗な邸宅を築いた執事文化の黄金期であり、大邸宅では使用人の組織が大きく育ち、役職ごとの分担と序列がはっきりしていました。家内使用人のトップに立つ役職が家令(スチュワード)で、人事・経理をはじめ、主人の手紙の代筆や旅行の手配までを担いましたが、この役職が置かれたのは非常に大きな邸宅にかぎられていました。
執事はその下で、来客対応や馬車での外出付き添い、食卓の給仕にあたるフットマンを監督し、酒類や銀器の管理と食卓の給仕を受け持ちます。家令が置かれていない邸宅では、執事が人事・経理も担当して使用人のトップを務めました。女性使用人はハウスキーパーが室内を束ね、リネンや陶磁器の管理、日用品の購入・支給を担いながら、掃除を受け持つハウスメイドを統括します。
家族の食事をつくるコックは、キッチンメイドを補助につけて食材の調達までを受け持ち、洗い物はスカラリーメイドが担いました。女性主人に仕えるレディーズメイドは、ドレスの着替えの補助やヘアセットなど身の回りの世話にあたります。主人の身の回りに付く従者(ヴァレット)は衣服の管理や身支度の補助、旅行の荷造りを担い、靴磨きや汚れ仕事、使い走りといった雑務は少年が就くことの多い下級の使用人であるホールボーイが受け持つなど、役職ごとに領域が明確に分かれていました。








